(大学院修士課程修了生) 細川いづみさん(小林製薬)

 

職種別採用だから,最初入ったときから,いきなりマーケティングだったんだよね?なんてところだっけ?

 マーケティング室のリサーチ・グループというセクションで,ウチの会社は医薬品から日用品,食品まで手広くやっているんですが,それらを一括して調査の設計と実施を担当しているところです。そこに配属になって商品企画からブランド管理まで一括して担当するという話でした。

調査機能もった本部みたいなものだ。

 はい。ふつうは内部に調査専門部署があることは少ないと思うんですが,花王さんとかパナソニックさんとか,ウチもそうですが,調査部門があるところは,そこで一括していますね。

そんなところに送り込まれて,最初はどんな仕事だったの?

 最初は先輩の付き人みたいな感じで,見よう見まねで。とにかく経験がものをいう世界ということで,とにかくいろんなカテゴリーで一件一件,ウェブだったり定性だったり,調査の経験を積んでいきました。
 いちばん最初は…「しびれ」でしたね。医薬品に「シビアック」って商品があるんですが,手がピリピリしてボタンがとめられないとか,家事がうまくできないとか,それについて調べたのが最初で,ウェブ調査してインタビューをしたんですが,どういうときに痺れて,どんなことに困るのか,いままでどう対処してきたのかを聞いて,じゃあこういう薬があったらどうかと。それを先輩についてしました。

その最初の仕事でどんなことを思った?

 いやあ,まったく初めての話で,そもそもなんで「しびれ」というテーマに入ったのかもわからず,自分にはそういう経験もないので,まさに調査で調べたことで,どんなときにしびれて,なにに困るのかがまったく理解できない。それに対処してくれる薬があるとして,買ってくれるのか,素朴に疑問があって。血の循環の問題なんですね,しびれというのは。そこで,朝だけちょっとしびれるという場合もあれば,レベルもあるじゃないですか。

「しびれ」はけっこう長くやったの?

 いえ,それはすでに先輩がやっていたのにくわわってという感じでしたから。あとはなにをやったかなあ。とにかくこの1年間はいろいろやりすぎたというか,ほんとにめまぐるしくて。家庭訪問したりインタビューしたり。定性ですね。
 たとえば,「ブルーレット」って商品があるじゃないですか。あれが去年くらいから売上も持ち直したんですが,それまでしばらく落ち込んでいたんです。そこで,どうやったらこの商品の価値を感じてもらえるのかと。それがよくわかっていなくて,じゃあどんなときにトイレが汚いとか,掃除しないとって思うのか,それを聞いていくと,便器の水際のところにピンク色をした輪ができるの,わかりますか?あれが初期症状で,そのあとに黒くなっていくんです。そのピンクの輪を見ると,トイレが汚れてきていてすごく嫌なんだと。これはトイレ掃除をさぼった証拠なんだと。そこで,この様子をどうやったら伝えることができるのかと,そこから考えて出てきたコピーが,「サボッたリング,出ていませんか?」というものだったんです。もちろんほかにも要因はあるんでしょうが,この一言の問いかけは,やはりインパクトが大きかったようでしたね。まあ,そういう言葉を探したり考えたり。どこに着目したらいいのかをブランド・マネジャーや開発者の方に提案して議論していくわけです。

なるほど。で,それを開発者とかにぶつけたとき,どんな反応が戻ってくる?

 (笑)そこですね。それはそうだろうと。ピンクのが嫌なのはあたりまえだろうと。こんな感じになるんですが,わたしたちとしてはそこにピシッとした言葉をあててあげることで,「ああ,そうだよね」という共感を得られるかどうか,これが大事だと思うわけです。そこで,CMをテスト的につくってみて,自分たちで共感できるかどうかを確認したりしていきます。

へ〜。それはどれくらいの人数でやるの?

 調査でいえば,ひとつのカテゴリーにひとりだけなんです,リサーチャーは。ひとりで設計して提案して分析して,というのをします。もちろん調査会社も利用するんですが,こう見ると社内でのコンサルタントみたいな感じかもしれませんね。「どうしたらいいと思う?」ってことから始まって,「こんなことをしてみたらどうでしょう」と。

いや〜,もう入ったときからマーケティングの最前線じゃないか。

 いやあ,そんなことないです。なんか恥ずかしいです。大手のトイレタリーからすると,「まだそんなことやってるの?」ってことをしていて(笑)。

そういう仕事を自分たちでやっていくの?

 はい。コンセプトをつくって,それを磨いて,試作を使用テストして。広告つくるのは代理店ですが,それをわたしたちでチェックします。

ところで,家庭訪問したとかヒアリングしたとか言うけど,その相手はどうやって見つけているの?

 まず,ウチの商品に関してでしたら,商品のなかに同梱されているお客様カードの葉書,あれに書いて返送してきてくれた方のなかからです。そのなかに,こんどお話を聞かせていただいても良いですか,というような質問項目があって,それにOKと答えてくれている方に連絡します。(谷地―はあ,そんな項目入れてるんだ)入れてます。(谷地―で,それにOKしてくるひとがいるの?)いるんです。
 一方で,競合さんのことだったり,新商品のことだったりすると,調査会社に依頼して,リクルートをしてもらいます。調査に協力してくれるひとを探してもらいます。

さっき,去年はめまぐるしかったって言ってたけど,それ以外にも?

 はい,そうです。医薬品もやったし,オーラルもやったし,衛生もやったし。とにかく吸収しろってことだったので,相当やったと思います。まあ,そういうことになるのは規模が小さな会社であるからなんでしょうけど,教育よりも,まずは行ってみろ,見てみろ,やってみろというのがウチの会社ですね。それで2年目には独り立ちになってしまうんです。なにからなにまで自分でやらないといけない。

どうだった?

 も〜それは大変でした〜。特に,リサーチというのは,先輩よりも強くなければいけないんです。自分がリサーチしてそこから提案することに納得してもらわないといけない,引っぱっていかないといけない,それをたかが2年目の人間がしないといけないわけですよね。これが大変で。リサーチから出した答えについて,ほんとにそうなのか?って聞かれるわけです。

ほんとにそうなのかって,そんなこと100%言えるわけないじゃない?

 ええ,なので先輩がわからない,判断つかないところで,「じゃあここから見てみましょうか」とか「全体を見ましょうよ」とか,「ここはもうやったから,こっちをやってみましょうよ」とか,そういうやりとりのなかでうなづいてもらえるかどうか。お金がかかるわけじゃないですか,やっぱり。それが無駄になるかもしれないなかで,同意してもらえるか,ですね。

ふ〜ん,それで現場の行ったことがすんなり通っていくの?

 ウチはリサーチを実施するかどうかの決裁は早いですね。特に,現場の力が強いので,大きなミスでもなければ通るのは早いです。現場が決めたらやるみたいな。

印象に残っているリサーチは?

 いまわたし,食品を担当しているんですが,かなり古いブランドで「イージー・ファイバー」という商品があります。「レタス2個分の食物繊維でおつうじ改善」みたいなふれこみで。わたしがもっているのは食品と通販とコンビニというカテゴリーで,大きさとしてはそれほどでもないんですが,そのイージー・ファイバーの調査で,食物繊維系の商品って,あまり売れてないんですね。それをどうやったら持ち上げることができるのかを考えているんですが,実は特保じゃないのでこの商品でおつうじがどうのこうのって言えないんですね。でもこの間ずっとブランドを放置してきたので,あまり効かない,おいしくない,古くさいという,そんなイメージになってしまったんですね。
 まず,レタス2個分の食物繊維って言いますけど,実はあまり量はないんです。でも,もとからレタス2個分って言ってるので,それがブランドのお約束になっている。なので安易にそれを切り離すことができない。でも実際にそれがどれくらいお客様に響くのか,それを知るために,ユーザーに集まっていただいて,「パッケージを書いてください」ってお願いしたんです。そうしてお客さんがレタスの絵とかそれ2個分という文字を書くのであれば,やはりそこを切り離すわけにはいかないんだと,ブランドが迷子になってしまうんだと,そういう提言ができました。

なるほど,投影法だね。そのアイディアはどこから?

 いや,ないです。自分でどうしたらわかるかなっていろいろ考えて…。

でも,絵なんて,いきなり書けないひとだっているよね?

 はい,います。でもまったくの白紙ということはないですので,たとえば使った色鉛筆がどんな色だったかを見て,いろいろと推定します。結局正確に言えば,商品の価値としてはレタス2個分の食物繊維はあまり意味がなくなっているんですが,売り場で探すような場合は,レタスの画像が重要な目印になっているので,パッケージから完全に外してしまうことにはリスクがあるということがわかったんですね。

これが印象に残っているというのは,やっぱり自分で考えてユニークな調査をしたから?

 それもありますが,常識的に言われていることに対して,あえてほんとうかって疑問をもって,それについて確証を得ようとしたことや,ユーザーが深いところでどう思っているのかにアプローチした点ですね。

そういうのはやっぱり会社から体系的に教えられるわけじゃないんだよね?

 そうです。それに,やってみてつくづく思うのは,特に定性調査の場合はやってみないとわからないことばかりだし,見たこと聴いたことから,どこにどう注意を向けて,どう考えるかがすべてなので,教育によって教えるには限界があると思います。沈黙する瞬間とか,その間とか,視線の動き方についてなんて,本読んでもわからないじゃないですか。担当の方と同じ現場に身を置いたうえで,あれはああだった,こうだったって話にならないと,理解できないですよね。とはいっても,最初の頃は調査会社の方からも,いろいろと教えていただいたことは確かなんですが。

ところで,1か月に1回ほど東京に来ているっていうけど,それはなんで?調査で?

 はい,そうです。関西とこっちの違いもありますし,こっちの方が市場の大きさがあるということもあって。きょうはダイエット食品のアイディアをいま考えていて,コンセプト自体はオッケーが出ているので,じゃあそれを棚に並べたらときに,お客さまの目を引けるのか,おかしなところはないかと。で,自分がメーカーの人間だとわかってしまうとダメなので,ひとりのお客さまという立場で覆面で参加していました(笑)。最後には明かしてあまりバイアスをあたえない程度に,「きょうはどうでしたか?」みたいなことを聞きます。

 あと,面白いリサーチで言えば,芳香剤って置きますか?いろいろとご意見があると思うんですが,先日,「無香空間」という商品のユーザーのお宅におじゃましたんです。そしたら商品がタンスの上に置いてあったんですね。けっこうそれが目立つんですよ。なんでそんなところにということで伺ったら,「タバコの煙をとりたいから」という答えでした。煙が上に上がるものだから,できるだけ上に置いておいたほうがとれるんだと。こういう話って決して紙ベースのリサーチでは出てこないんですよね。やっぱり実際にお宅を訪問して,拝見させてもらうことで,「なるほどね,それってあるよね」ってことが見えてくる。そしたら,あらためて商品とかをどうしようかってさらにアイディアを考えていくことができるわけで…。

ところで,さっきからコンセプト,コンセプトって言葉が出てくるけど,小林製薬ではコンセプトはやっぱり重要なの?

 大事ですね〜,すごく。ってか,コンセプトがすべてですよ,ウチの会社は。全社一丸となって,それしか考えてないくらい(笑)。

そのコンセプトなんだけど,小林製薬では,コンセプトってどんなものって考えられているの?別に難しい言葉というか,そんな回答を求める質問じゃないんだけど。

 一言で言うと,「気づき」,でしょうか…。最終的に,いかにして「あ,それ,そうだよね」って思わせるか,ということもあるし,それをあえてぜんぜん違った風に見せる,というのもあるじゃないですか。だからコンセプトっていうと,なにか面白いって感じがあると思うんですが,それよりもいかにそれに気づかせるか,ここが大事なところで,ウチはそこに長けているんじゃないかと思うんですが。

う〜ん,コンセプトとは気づきである,か。使わせてもらうわ(笑)

 言葉をそのままカタチにしてもうまくいかないんです。でも,その言葉をちょこっと変えただけで面白くなったり新しくなったり,いままでになかったものにできたりするので,そういう視点で見られるということが,気づきだと思うんです。さっきのサボッたリングもそうだと思うんです。あの言葉を使っただけで何十億と変わるわけで。

なるほど。逆に,うまくいかなったというか,気づきが出ない場合もあった?

 いやあ,そっちの方が多いですよ。調査すれば必ずなにかが出てくるなんてことはないですね。でも,なにをわからなければならないのか,ということについてはみんなで統一しておくことが重要で,そうじゃないといったいなんのためにやったんだっけ?ってことになってしまう。

会社の調査はストックされているんだよね?

 はい,全部データベースになっているので,ほかの調査案件のデータもいろいろと見ます。特に,わたしなんかいちばんぺーぺーなんで,どんどん吸収していかないと追いつかない。なので,ほかの調査案件を参考にして,あそこではこんなことやってこんなことがわかっているので,こっちでもこういうことをしてみると,こういうことがわかるんじゃないですか,という提案にも使います。

身近にお手本というか目指しているひと,みたいなのはいる?

 はい,います。同じグループで女性の研究出身の方で,ものすごく頭が良いというか,わたしが言うことに対して,いっつも先を読むんです。話を聴きながら,「であれば,こうなってああなって」と考えてしまうので,たとえば石けんについて相談すると,「ああ,あれはね…」って,すぐに先の答えが戻ってくるんです。とにかく,話していると面白くてしょうがないんですよね。あと,「○○がそう言うんだったら,やってみようか」って上のひとから言われるような,社長からも認められているようなひとです。そういうレベルのひとにならないと,一人前ではないということで。それでも6年目とか7年目なんですが。

下には後輩はいるの?

 いないんです。わたしが一番下です。いきなりマーケティングとか企画というのはすごく大変で,育てるにもお金もかかるし手間もかかると。ある程度の経験を積んだひとを中途採用するのが基本ですね。その点,先生のもとで企画や開発のおもしろさを知っておいて,本当に良かったと思いますね。

でも,小林製薬については特にとりあげなかったよね?

 はい,就職活動をきっかけに会社のことも知るようになって,採用のプロセスで先生もご存じの○○(役員)に面接してもらってという…。大学時代からマーケティングに関わりたいとは漠然とは思っていましたが,ゼミがなければ特に企画や開発に関わりたいとは思っていなかったでしょうね。

会社に入って,その空気のせいとか,リサーチという仕事のせいとかで,自分が変わったってことはある?

 そうですね〜。以前が閉鎖的だったとすると,ここでは自分が変わらないと,みんなが受け入れてくれないし,学ばないとダメなんで,どれだけ自分から聴きに行くか,教えてもらいにいくか,とにかく自分から出て行かないといけない。ここがまず変わったかな。
 あと,仕事の延長で,プライベートな時間でも,ひとを観察してしまいますね(笑)。薬局が多いんですが,ひとが群がっているところには自分も並んで,いったいなにを見ているのか。あと,ひとりの女性がなにとなにをくらべて,最後はなにを選ぶのかとか。もちろん声をかけたりはしません。観察ではないですが,デジカメをいつももって,ハッと思ったこととか気づいたことは,すぐに撮影しておくとか。それと,言い方は悪いですが,お店とかでひとの会話の盗み聞きとか(笑)。マックとかで,となりの女子高生がしている会話を聞いたり。「あれ,超良いんだよね」とか,けっこうダイエットの話とかしているんですよね。そこからこっちが「そうなんだあ」って気づくこともありますね。