実務との接点に関して     2014.7.30改訂終了

 

 わたくし自身は,実務(企業)とのつながりをとても重視しております。
 それは,なによりも実務の方々とのコミュニケーションを通じて,問題や課題を発見したり,それに対するアプローチを考えたりなど,自分の思考を鍛えてもらうことができるからです。(なお,これは学術界とのつながり,コミュニケーションを軽視・看過しているのではないことにご留意下さい)

 

自分にとっての実務家教育の意味
 

 「つながり」にもいろいろですが,メインと言えるのは教育です。ある会社の従業員教育を請け負うことがあります。言い換えると,研修の講師を担当することです。わたしの場合はマーケティング,商品企画に関するテーマがほとんどです。このような実務教育の場が,わたしの血肉になってきたと思います。
 そのような場が増えていくなかで,話すことの内容や話し方,プレゼンシートの構成が改善されていくのも,重要なことでした。改善ではなく大きく内容が変わることも多々ありました。研修では受講者アンケートをとり,そこで評価を受けます。そのなかに貴重なVOCがふくまれています。つまり,場を踏むたびにフィードバックをうけるので,それをもとに以降どうすべきか,PDCAをまわしていくクセがつきました。
 受講者からの質問と回答は,研修でのコミュニケーションの中核です。実は,最初の頃は質問されることを恐れたりしていたものです。「答えられなかったらどうしよう。恥ずかしい」などと思っていました。しかし,場を踏んでいるうちに,質問の内容や傾向を見ることで,こちらの内容不足や問題,そして改善の方向が見えてきました。そして,それを繰り返していくことで,フィードバックの内容,つまり受講者からの評価も向上していきました。
 そうしてPDCAをまわしているうちに,自分の考えがまとまったり,新たな問題の発見につながったりなど,研究活動にフィードバックされることが多々ありました。受講者とのコミュニケーションを通じて,実務の情報をキャッチすることもできます。
 このように,実務とのつながりとして,実務家向け教育の場というものがあり,そこで場数を踏ませてもらえたことが,自分の成長につながってきたのだと思っています。そのような場をあたえてくださった企業にはとても感謝していますし,これからもそこは大事にしていきたいと思っています。
 逆に,実務家との接点でも,双方向のコミュニケーションがないような場は,自分にとって魅力がありません。たとえば講演です。講演は基本的にわたしが一方的にしゃべり,最後に質疑応答があるかないか,というものなので,基本的には対話の場がありません。これですと金銭的なことは別として,自分が知を得ることができないと思ってきました。なので稼得手段としてだけ見れば効率的な講演を,わたしは基本的にはお断りしています。
 


実務家教育のコンテンツ―フレームワーク


 実務家に対して研修を行う場合,現在はつぎのようなフレームワークのもとで行っております。ベースとなるのは拙著『「コト発想」からの価値づくり』です。
 わたしは,いわゆる「価値づくり」というものが,5つの活動から構成されているとされていると考えています。それを表したのが下の図です。5つの活動はいずれも「お客様の価値を」というコトバに続く動詞となっていて,「探す」「定める」「つくる」「伝える」「守る」です。



 

 まず,価値を「探す」ですが,どのような技術を,ひいてはどのような商品をつくるのか。それを決めるために,お客様に関する情報が必要となります。お客様に関するどんな情報が必要なのか,またそれをどう集めればいいのか。このあたりが課題となってきそうです。いずれにしても,ここが価値を探すという活動であり,テーマになります。マーケティングでは,このような活動のことを「マーケティング・リサーチ」と呼んでいます。
 つぎに価値を
「定める」です。これは,「探す」ことで得られた情報をふまえ,どのようなお客様にどのような価値を提供するのか,そのコアを固めることです。この,「どのようなお客様にどのような価値を提供するのか,そのコアを固めた」ものを,「コンセプト」と呼びます。言い換えると,コンセプトを決める活動が,価値を「定める」です。
 図ではその上に,価値を
「守る」というボックスがあります。
 お客様からすると,会社は違っていても,商品の間には違いが見られないことがあります。すると,お客様はできるだけ値段の安いものを買ってしまいがちになります。そうなると,えてして会社は値段で勝負するような戦い方をするようになります。結果として利益が出にくくなってしまいます。
 すると,こうした競争のなかで利益を出すためには,値段を下げなくてもお客様が買ってくれるような商品をつくる必要があります。そんな商品とはどのようなものでしょうか。単純に見れば,ほかの会社の商品にない,ならではの特徴があって,それがお客様にとって価値があるなら,その会社の商品を買ってくれるかもしれません。
 とはいえ,現実はそうはいかない。なぜかというと,「ほかの会社の商品にない,ならではの特徴」を自社の商品につけることができたとしても,しばらくするとほかの会社も同じような特徴をもった商品をぶつけてくるからです。要するに「マネ」してくるのです。
 いったんマネされれば,その「特徴」はもはや特徴ではなくなってしまいます。その結果,元の木阿弥になります。つまり,「お客様からすると,会社は違っていても,商品の間には違いが見られなくなり,お客様はできるだけ値段の安いものを買ってしまいがちになる」ということです。価値を「守る」というのは,どうしたらそんなことにならないようにするかを考え,手を打つことです。言い換えると,どうすればほかの会社がマネしてこないようにできるかを考えることです。
 わたしは,この3つについて構想することを,
「企画」と呼んでいます。まとめて表現すると,お客様に関する情報を集め,それをもとにしてお客様にとって価値があり,かつほかの会社にマネされないような技術や商品を構想することです。
 すでにお話ししたように,企画のアウトプットは「コンセプト」になります。すると,それをベースにして,具体的に技術や商品を「開発」するという仕事があります。この開発を価値を
「つくる」と言い換えています。ここはわたしが知識を提供する範囲外になります。
 5つめですが,価値を
「伝える」です。つくりあげた技術や商品が,どんな価値をもつのかを,文字通り伝えるという活動です。
 では,だれが,だれに伝えるのでしょうか。ここはいろんな状況が考えられます。
 まず,「だれが」に挙げられるのは,商品を売るひとです。代表は営業マンです。だれにでしょうか?当然お客様です。ただ,単純にお客様と言っても,実は具体的な相手はいろいろありえます。
 一見すると,エンジニアの仕事とは関係ないように見えます。ですが,そんなことはないのです。実は技術をつくるひとにも,「伝える」という仕事があります。研究所で技術をつくっているのであれば,それを商品化してもらうために,事業部に話をしなければなりません。事業部で商品を開発しているひとは,お客様に売ってくれる営業マンに話をしなければならないこともあります。
 ここでのポイントは,技術をあつかうひとも,その価値を伝える仕事をしなければならず,よってそのための技術も併せ持つ必要があるということです。こういう技術の1つに「プレゼンテーションの技術」があります。ただもう1つのポイントは,こういうプレゼン技術も大事ではあるのですが,なにより肝心要の技術・商品の価値がキチッと決まっていなければ,伝えようもないということです。その意味で,やはり企画という仕事,言い換えると,キチッとしたコンセプトをつくることがエンジニアにとっても大事になることがわかります。

 

実務家教育のコンテンツ―中身

 こうした活動について話をしていくのですが,そのまえに,このような活動を推進するためのインフラとなる知識として,わたしは
「コト発想」法というものを強調しています。
 ビジネスでは「お客様視点」の重要性が叫ばれるなか,いかにして「お客様視点」に立てるか,立てるとなにが良いのか,立てないとどんな悪いことが起きるのか,なぜその実践が難しいのかを研修では説明します。受講者には実際にワーキングをしてもらいながら,腹に落としてもらうようにしています。
 コト発想を説明したら,その発想のもとで,どのようにお客様の価値を探すのか,いわゆるマーケティング・リサーチの話をします。ただし,ここではリサーチ方法を網羅的に紹介することはしておらず,いちばん上流の工程として,「定性調査」と言われている方法を中心に解説しています。
 そのうえで,実際にコト発想でお客様の実態をくわしく明らかにしていく作業を,ケースを使って受講者に進めてもらうようにしています。いちばんよく使うのはJR東日本の「Suica」のケースです。1枚の切符を現金で買って電車に乗るケースをまずは想定し,買うとき,入る改札をするとき,そして出る改札をするとき,どんなコトをしなければならないのか,それをめぐってどんな問題が起こるのか,できるだけ多くのアイディアを出してもらいます。そのうえで,これまで同社が導入してきた「オレンジカード」「イオ・カード」そして「Suica」の順にとりあげ,どんなコトをしなくても済むようにしてきたのか,どんな問題を解消してきたのかを考えてもらいます。こうして,技術や商品・サービスの発展・イノベーションというものが,コト発想というお客様視点で明らかにされていきます。そのプロセスを体験してもらっています。
 これまではお客様に焦点を合わせた内容の話でしたが,そのあとはもうひとつの重要な要因として,競争(ライバル)をとりあげます。価値を「守る」で話したように,いくらお客様に良かれと思うことをしても,それがビジネスにつながるわけではありませんし,利益につながるわけでもありません。ライバルも同じように考え,動いています。
 では,お客様のためになりながら,同時にライバルがマネしてこない,こんなことはありうるのでしょうか。それがあるのだ,ということを考えます。特に,そんな構図が生まれるとき,シェアの大きな変動が起こる傾向があります。言い換えると逆転が起きるのです。
 なぜそのようなことが起こるのでしょうか。お客様のためになるというのであれば,ライバルはいつだって同じことをしてくるのではないでしょうか。そうならないようなとき,ライバルではいったいなにが起こっているのでしょうか。なぜマネしてこないのでしょうか。逆に,ライバルがマネしないような打ち手の論理とは,どんなものでしょうか。ケース・スタディをベースにこのような問題を検討していきます。

 

実務家教育のコンテンツ―方法


 うえで書きましたが,研修では実例(ケース)を多用しています。ただし,実例に関する知識自体を得ることが目的ではなく,もとはお伝えしたいコンセプトや考え方があって,それをイメージアップしてもらうために使っているということ,あるいはいくつかの実例を見,そこに共有するロジック,メカニズムをとりだすことが目的であること,ここを留意点として強調しています。
 使用している(登場する)実例を挙げると,以下のようなものになります。これらすべてをとりあげるわけではなく,状況に応じて種々選択しています。

TOTO 「ウォッシュレット」「New Lavatory Space」
日清食品 「カップヌードル」
おやつカンパニー 「ベビースターラーメン」「ラーメン丸」
ミツカン 「金のつぶ におわなっとう」「味ぽん」
ネスレ 「キットカット」
ヤマサ 「鮮度の一滴」
サントリー 「BOSS」「DAKARA」「-196℃」
ハウス食品 「ウコンの力」
日本酸素(当時) 「THERMOS(ステンレス二重真空式魔法瓶)」
スリーエム 「ポストイット」
ロッテ 「ホカロン」「クーリッシュ」
大正製薬 「リアップ」
エスエス製薬 「ドリエル」
パナソニック 「ルミックス」
NABI 「MODEL40」
ロッキード・マーチン 「F-35」
日本コカ・コーラ 「アクエリアス」「ジョージア」「リアル・ゴールド」
トヨタ 「アルファード」「ウィッシュ」
ジョンソン&ジョンソン 「リーチ」
アサヒビール 「スーパードライ」
エーザイ 「チョコラBBドリンク」
アート引越センター
マクドナルド
セブン・イレブン
JR東日本 「SUICA」
プラス 「アスクル」
コマツ 「コムトラックス」
吉野家


 研修では,グループワークを行っていただくことが多くなっています。
 その際,わたしは「ポストイット(ふせん)」を使ってワーキングしてもらうように,おすすめしています。
 グループワークの時間は限られています。できるだけ効率的に進め,かつより良いアウトプットを出すことが重要です。そこで,グループワークでは「大判のポストイット」を利用した「見える化」を行ってもらっています。これを言い換えると,グループワークの場合はホワイトボードを使うことが多いと思うのですが,研修ではホワイトボードに直接書き込まないようにしてもらっているということです。
 直接ホワイトボードに書き込んでいると,書き直したりするのに時間がかかったり,そもそも書き直すことが面倒になったりします。また,スペースが足りなくなってしまうこともありえます。
 一方,ポストイットに書き込んでホワイトボードに貼っていくことにより,追記が簡単にできる(ポストイットを新たに貼る),削除(消去)が簡単にできる(ポストイットをはがす),項目の入れ替え・組み直しが簡単にできる(ポストイットの位置を変える),といったように,カット&ペーストがホワイトボード上で自由にできるようになります。
 とはいえ,1枚のポストイットに細かい文字でゴチャゴチャ書き込んでしまっては意味がありません。書き込んだポストイットの数が増えることを心配せず,1枚に大きな文字で書き込み,見やすくして貼ってもらいます。
 なお,ポストイットを使ったワーキングについての詳細は左のメニューでご覧ください。